【幸せを目的にした政策】03.個別政策の問題点 (3)年金

7月 23rd, 2012 No Comments »

年金の支出は37.3兆円、国民1人当り295千円、1世帯当り719千円です。

 現在の公的年金は、国民全員を対象とする国民年金が基礎となります。さらに上乗せ分として、自営業を対象とした国民年金基金、会社員を対象とした厚生年金、公務員を対象とした共済年金などがあり、20歳以上60歳未満の全ての人に強制加入させる仕組みとなっています。

 国民が負担する保険料は、どの制度に属するかにより異なったルールが適用されます。徴収された保険料は、厚労省の外郭団体である年金積立金管理運用独立行政法人や、厚労省の認可を受けた、企業が母体の企業年金基金などで運用されます。

 これらの団体は資産運用に関して押しなべて素人なので、民間の運用機関に委託します。民間は営利目的で行なっており、手数料が稼ぐことができれば、資産が目減りしようが責任を取る必要はありません。AIJ問題は氷山の一角であり、皆さんが預けた多くのお金は、驚くほど目減りをしているのが現状です。

 さてこのように運用された年金は、65歳から支払われます。今のルールが維持されれば、2010年時点の平均寿命は女性が86.39歳、男性が79.64歳なので、女性は約21年、男性は約15年間、年金を受け取ることができます。平均よりも早く死ぬと、遺族年金、寡婦年金、死亡一時金のどれかの形態で支払われます。

 国民が支払う保険料は、国民年金は定額ですが、厚生年金基金などの上乗せ部分は、標準報酬月額、加入期間、乗率により計算されます。保険料は実際の給料や賞与に対して、決められたパーセンテージが徴収されますが、一方、支払いになると、過去の平均給与や、厚労省が決める乗率により、どんぶり勘定でに決められているのが実態です。

 年金の運用に失敗しても誰も責任を取らず、関係者は潤い、そのつけは受給開始年齢の繰り下げ、乗率の見直し等で、国民に回すことができる制度です。また非効率な運営体制で、実態はとんでもない事業費率であると類推されます。(その分国民の税金が充当されます)

 何故、我々は、このような非合理、非効率な制度を、国というコミュニティにお願いする必要があるのでしょうか?民間に任せればよいのではないでしょうか?民間は個人年金保険というサービスを提供しており、国民は、自分に合った制度を選ぶことができます。

仮に20歳から60歳まで厚生年金に加入した場合、生涯の平均年収が600万円と想定すると、40年間支払う保険料の総額は3,940万円です。一方の受給額は65歳から受給を開始して平均寿命の80歳までの総額はわずかに3,312万円です。これを民間の保険会社に個人年金として預けた場合は利率を0.7%として4,560万円となります。0%としても厚生年金よりましな状況です。

 2012年7月5日のニュースです。
「厚生労働省は5日、平成23年度の国民年金保険料の納付率が58・6%となり、過去最低を更新したと発表した。」

既に現状の年金制度に加入してある一定期間が経過している人は、抜けると損をしますが、これから加入する人、或いは加入して間もない人が公的年金に加入しないのは、賢明な判断である気がします。

【幸せを目的にした政策】03.個別政策の問題点 (2)介護

7月 20th, 2012 No Comments »

介護の支出は5.5兆円、国民1人当り43千円、1世帯当り106千円です。

介護保険事業の運営と、介護インフラ拡充のための補助金、融資が、主な内訳です。

政策の説明として、「地域の介護ニーズに対応するため、地域密着型サービスの整備に係る既存交付金(市町村交付金)の拡充、施設整備に係る都道府県による補助金に対する地方財政措置の拡充等を通じて、特養・老健・グループホーム・小規模多機能事業所など介護拠点等を緊急に整備する。」と謳っています。

 医療保険と同じ議論ですが、介護保険をどうして民間に任せないのでしょうか?民間に任せれば、国民のニーズにより適合したフェアな保険が開発されるのではないでしょうか?

また社会インフラとして必要な財・サービスの促進のための投融資も、民間に任せるオプションがあります。

 しかし、民間の銀行やファンドは、拝金主義の番人です。難しい側面もあります。現状の経済ルールである会計上の利益は、幸せの増加の寄与と等しくありません。投融資の選定に、新たなルールを設けたり、そのような拝金主義者の暴走を食い止めたりする規制が必要な気がします。

 利益よりもより本来的な指標として、CSR(Community Social Responsibility)指標があります。

「受幸者人数 x 幸せの大きさ」を「幸せを作る工数 x 苦労の大きさ」で除したもので、CSR指標>1であれば、コミュニティの社会における存在意義があることになります。ただし数値指標として用いるためには、今後の研究が必要です。

【幸せを目的にした政策】03.個別政策の問題点 (1)医療

7月 19th, 2012 No Comments »

医療関係の支出は23.4兆円、国民1人当り185千円、1世帯当り451千円です。この支出の多くは健康保険によりカバーされている医療費の給付です。4歳から70歳未満の医療費の70%、3歳未満70歳以上は80%~90%を、皆さんが拠出した健康保険でまかなっています。

 お金だけで見ると、健康な人は損をし、不健康な人は得をする構造です。世界でも稀な皆保険という制度を選択し、健康弱者を助けるコミュニティの仕組みです。この仕組みが成り立つためには、資金の提供者である健康な人に対して、不健康な人、高齢者をどれだけ援助しますかという問いかけが必要です。

 またそれを国というコミュニティ全体で画一的ルールにするのか(従来通りの国の保険)、その中のサブコミュニティを形成して、同コミュニティのサービスに賛同する人達の判断に委ねるのか(民間保険の活用)も論点となります。

 従来通りの保険制度は、風邪や、軽度の症状でも、とにかく病院に行くことが助長されるという問題があります。現在、セルフメディケーションと称して、薬局やドラッグストアで、より効き目が強い薬が条件付で販売できるようになりました。しかし、当局は副作用などのリスクに及び腰で、実際はさほど規制緩和が進んでいません。

 民間保険に完全に委ねた場合は、国民1人当り185千円という負担が国民に還元されますが、その収入を他のことに使ってしまえば、無保険者が増えることになります。自業自得といえばそれまでですが、個人、家族に留まらず社会全体の衛生に悪影響を与えるおそれもあります。

 結論は、その中間であろうかと思いますが、増税の前に、国民に分かりやすく説明をして、判断を求めることが重要かと思います。

【幸せを目的にした政策】02.日本というコミュニティの収支

7月 18th, 2012 No Comments »

先回お話した、2012年度の当初予算の純計ベースでの歳出220.3兆円をブレークダウンしたのが以下の図です。

220.3兆円という金額は、国民1人当りに換算すると1,743千円、1世帯当り平均ですと4,249千円となります。つまりこの金額を我々国民は、日本というコミュニティの運営者に預けて、同運営者からサービスを購入していることになります。

企業の税金も歳入としてあるので実態はもっと少ないと言われるかも知れませんが、企業は実態のない虚像であり、企業も株主、従業員などの人から構成されている訳ですから、国民1人当りが負担しているということに、大きな間違いはありません。

これらの多くは、給与として支払われる前に徴収されていたり、財・サービスを市場で購入する際に料金上乗せの形で徴収されているので、実感がないだけです。仮に、コミュニティの運営者(公共機関)にこれらのサービスをお願いせず、民間に任せたとすると、借金の返済分を除いて、国民1人当り1,092千円、1世帯当り2,662千円の所得が増えることになります。そして、各個人の判断で、企業が提供する様々なサービスを比較して、購入するかどうか決められることになります。

その結果、救うべき弱者が救えない、社会の幸せの総和が下がってしまう場合には、クラウドファンディングのような民間の助け合や社会貢献の場を優先させて自主的課題解決を行い、それでも課題が解決しない場合に、国、地方自治体などが介在する意義が出てくるということです。この原則を忘れて、大昔に誰かが決めたルールに基づき、公務員の既得権益となっているのが現状ではないでしょうか?

2012年度国家当初予算には、26.9兆円の公務員の人件費が含まれます。週刊ポスト2012年3月16日号によれば、民間サラリーマンの平均給与が412万円なのに対して、国家公務員の諸手当を含む平均年収は809万円だそうです。これに加えて格安の官舎、また一部の公務員には天下り先が用意されているのです。

次に、もう少し詳しく予算の内訳を見てみましょう。
支出の中で、最も大きいのが借金の返済で37%です。平均的1世帯当り1,586千円にもなります。成熟した市場で経済成長が望めないにもかかわらず、無策の政治により支出は切り詰めず、これだけの赤字を作ってしまいました。

この借金返済のため、国民に負担をさせようというのが消費税の増税です。消費税5%アップによる増税額は13.5兆円と試算されています。これは焼け石に水で本末転倒、今やるべきことは支出の大幅削減であることは、お分かりの通りです。

ではどの支出を切り詰めるべきか?支出額の大きい順に、年金、医療費、地方自治体への援助、国が行なう特定目的への貸付、福祉その他、その他事項経費、公共事業関係、文教及び科学振興、防衛関係と続きます。我々は、これらのサービスを受け取る対価として、負担額が納得できるのかどうかを判断しなければなりません。また代替策として、民間に任すというオプションがあることも考慮に入れるべきです。

次回以降は、構成比の高い、年金、医療、福祉その他、公共事業関係、文教及び科学振興、防衛関係と、問題が大きい食料安定供給関係の中身を見てゆきたいと思います。

【幸せを目的にした政策】01. ひどい政治

7月 17th, 2012 No Comments »

昨今の増税議論には辟易とします。マニフェストという国民との約束を、国民に信を問わず平気で覆す、また専門家と言われる過去の因習を勉強し伝える評論家が、増税を声高に訴える理由はどこにあるでしょうか?

ここで日本の現状を数字で見てみましょう。国家予算は一般会計と特別会計から構成されます。2012年度の当初予算を見てみますと、一般会計が92.4兆円、特別会計が384.9兆円で、単純合計で477.3兆円となります。各会計の重複を除いた純計では、歳入が232.7兆円、歳出が220.3兆円となります。

この純計は、企業会計ではキャッシュフローに近いものですが、それをPLに置き換えると収入が87.2兆円、支出が135.8兆円で、48.6兆円の赤字予算です。この状態が継続している現状、普通の企業であれば、会社更生法の下、役員が総辞職し、大胆なリストラで、再生を目指すところです。ところが政治家、官僚とも誰も責任を取ろうとせず、借金がこれ以上できない中、支出を切り詰めず、増税で収入を増やそうとしています。税金は、企業会計で言う投資に近いものですが、投資家たる国民の賛同なしに(マニフェスト違反で)、強制的に徴収するという暴挙です。

この状況下、原発はメルトダウンしない、他の地震が誘発されることもない、安全だから落ち着けと言い放ち、今回は消費税増税賛成をしようと決めたマスコミが選定した、専門家、識者は、口をそろえて、消費税増税は止むなしと言います。大赤字の財政を再建するには支出を切り詰めなければ、実現できないことを理解すべきです。

次回以降は、その観点から、我々が、日本というコミュニティに求めるものとその対価の関係性を掘り下げ、切り詰めることができる支出を考察して行きます。